::: エロゲーの殿堂 ::: |
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誰かを選ぶことが、必ず誰かを傷つけてしまう…… 主人公・鳴海孝之は、白陵大付属柊学園3年生。 マニュアルより |
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◆ 背景 ◆ |
2001年8月3日にアージュより『君が望む永遠』発売。2章構成のストーリーの内、第1章を丸々体験版として配布するという大胆な広告展開。それが第2章に対するユーザーの期待感を煽る事に成功し、発売後快調に売り上げを伸ばした。しかし、一部モザイクをかけ忘れたため自主回収となり、初期ロットが皮肉にも高騰する騒ぎに。 2002年9月26日、コンシューマ移植に伴ってアルケミストからDC版(全年齢対象)発売。新規ムービーやシナリオ等が追加されたものの、Hシーンは当然カット。2003年5月1日にはオークスから『君が望む永遠〜Rumbling hearts〜』(PS2版)が発売されている。 2003年7月25日にはプラットフォームを再びWindowsに戻し、基本ストーリーは原作準拠、シナリオやCG等を新たに追加してアージュより『君が望む永遠 DVD specification』が発売される。そして約5年後の2008年3月28日に、システム周りの改良等に加えて、先行のファンディスクの一部内容を本編に盛り込んだ最終版『君が望む永遠 Latest Edition』がリリースされた。 |
◆ 舞台 ◆ |
「白陵大付属柊学園」3年生の主人公「鳴海孝之」は、親元を離れての一人暮らし。特に目標なども無く、漫然とした日々を送っていた。学園生活最後の夏に、女友達の友人から突然告白される。 ストーリーは第一章と、その3年後に当たる第二章に分けられる。ゲーム内の期間は、第一章が1998年7月3日(金)から8月27日(木)までの約2ヵ月間となるが、途中何日かは飛ばして進行する。第二章は2001年7月28日(土)から最長で11月3日までだが、通常は8月一杯で終了。こちらは終盤まで毎日消化して行く。 移動場所は、第一章は自宅〜学園が中心。第二章では自宅と病院、バイト先が中心となる。 |
◆ ターゲット ◆ |
攻略可能な女性は8人。内訳はOLと入院患者によるツートップを軸として、そこに女子高生を加えた3人がメインヒロインとなり、 サブヒロインとしてナース3、バイト先の女性2の計5人というラインナップ。 Hシーンは一応全て和姦。回数は、サブヒロイン5人中4人が各1回ずつで、ナース(眼鏡)は8回。メインヒロイン3人中2人が各3〜7回となる。 そんな中で「水月」だけが19回と他を圧倒。シチュエーションは8割方ノーマルなものだが、コスプレ、野外、アナルなども含まれている。ストーリー重視の本作において一人健闘し、18禁作品の面目を保った。 |
◆ システム ◆ |
各種音量調節、オートモード、テキストスピード調節、過去ログ(音声履歴有り)、スキップ(既読・未読判別可)を搭載し、随時セーブ・ロードも可能。サムネイル表示付きのセーブスロットは1000箇所用意されており、コメントの書き込みも出来る。テキストはマイスホイール対応で、キャラごとの音声ON・OFFやフォントの変更、ディスクレス起動も可。 |
◆ シナリオ ◆ |
【AWAKE】 マルチエンド形式のAVGで、エンディング数はバッドエンドも含めると24種類。エンド数は女性によってバラつきがあり、サブヒロインの中にはバッドエンドしか存在しないキャラもいる。全3章構成だが、第一章は言わば長い長い前フリ。このゲームの本領は第二章からとなる。第三章はメインヒロイン3人の長めのエピローグ。 基本的には提示された選択肢を選びながら進めて行く事になるが、主人公がプレイヤーの選択を無視して行動するケースもしばしばある。 メインヒロインのエンドに到達した後、「最初から」を選ぶと「君が望む一章」が現れる。こちらは第一章での「遙の告白を断った場合」「遙が事故に遭わなかった場合」のifストーリー。 【Search the best way】 付き合い始めて約1ヵ月。破局の危機も乗り越えて幸福の絶頂にあったが、不慮の事故によって突然終わってしまった前の彼女との蜜月。その後は孤独と絶望感に苛まれて虚脱状態に陥り、転落人生を歩み始めていた主人公だったが、その傍らでずっと献身的に支え続けてくれた人こそ今の彼女。 蘇った前カノか、それとも今カノか。3年という長い時間を経て、難しい選択を突き付けられた主人公。どちらを選んで行くかでストーリーの流れも大きく変わって行く。 無論どちらも選ばず、決断を棚上げして他の女性へ救いを求める事も可能だが、初回プレイ時は遙と水月、そして茜のエンディングにしか辿り着けないようになっている。 |
◆ リメイク ◆ |
2001年発売の『君が望む永遠』より、Windowsではこれで2度目となるリメイク。基本部分はそのままに、ストーリーやシステム等、リメイクの度に大きく進化している。 リメイク第1弾となる前作『君が望む永遠 DVD specification』からの主な変更点として、まずストーリー面では新作となる「第三章」がエンド後のエピソードとして追加された。さらにファンディスクの『君が望む永遠 special FanDisk』に収録されていた「君が望む一章」を本作に組み込んでいる。 システム面での大きな変更はディスクレス起動が出来るようになったこと。また、メーカー最新のシステムに対応させ、目パチ口パクを始めとしてワイド画面を縦横無尽にキャラが飛び回るなど、動的演出は格段に進歩した。 そしてエロ面は、FDに収録されていたHシーンはそのまま移植されたものの、新規のHシーンは無し。 当初はエロゲーらしく、プレイヤーの感情移入用に主人公の目は描かれていなかった。しかし本作からは人物紹介や本編中でも、しっかりと主人公の顔が書き込まれている。 |
◆ 総評 ◆ |
【Historical or Current?】 実質2年にわたる時間を共有してきた今の彼女「水月」を優先する事が、一見自然な流れの様にも思われる。しかしプレイヤーはその期間を追体験してはいない。事故後はいきなり3年後に飛んでしまい、「空白の3年間」についてはストーリー中で断片的に語られるだけ。第一章で前の彼女「遙」に感情移入したプレイヤーは、設定上で3年経過したと言われても、実際にその時間の持つ重みはピンと来ないだろう。むしろ彼女が昏睡状態の間に、別の女性と付き合い始めてしまった事を後ろめたく感じる可能性もある。 一方で、その空白の期間に主人公と水月が築き上げた関係について脳内補完する事の出来たプレイヤーは、現在の状況を受け入れた上で、さしたる抵抗感なく水月を優先する事が出来るだろう。この辺りがヒロイン2人に対する感情移入について、各プレイヤー間に温度差を生じさせている要因でもある。 あえて3年間を空白にしたのは製作者側の巧みな演出だが、受け手側のイマジネーションにいささか委ね過ぎた嫌いがある。日常シーンにおいて、水月との思い出を回想シーンとしてもっと織り込み、2人の固い絆が出来上がっていく過程を描いていれば、水月エンドを事実上「トゥルーエンド」扱いしている点に十分な説得力を持たせられたはずだった。 【The King of “HETARE”】 マルチエンドという性質上、プレイヤーは何度もリプレイ出来る上に、気軽に別のルートを選択する事も可能。その際、プレイヤー側は早い段階で攻略女性を決めてストーリーを進めて行くのだが、当の主人公は大切な人生がかかっているため、中々態度を決められない。結果として、周囲の人達に当たり散らし、己の境遇を嘆いては頻繁に泣きじゃくり、大事な決断は先へ先へと延ばすという醜態ばかりが目に付く事に。 結局プレイヤーと主人公で、決断の時点の差が余りにも開き過ぎたために、本作の主人公は「ヘタレ」という不名誉な称号を背負うハメになってしまった。メーカーが当初に企図した「主人公=プレイヤーという究極の一体感」は、残念ながら不発に終わった格好。
本作がゲームである以上、プレイヤーは主人公としてプレイしなければならない。そのプレイヤーの考えや選択とはかけ離れた行動を採り続ける主人公に不快さを感じるのは避けられないが、一つの物語として見れば、背景設定や人物描写等どれをとっても一流の仕上がり。 |
初稿:2008.12.01 |
君が望 |